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2019年10月18日金曜日

37. 素粒子空間への参入 (1)

さて、ここからがいよいよヌーソロジーの醍醐味である人間の意識構造を素粒子空間へと参入させていくロジックが登場するわけですが、これにはいくつかの予備知識が少々必要になります。ヌーソロジーでは、この辺りになると、素粒子物理学の基礎的な知識や、それを説明するための小道具としての数学の概念などが多用されてきます。ただでさえ、「シリウス言語」という、私たちが慣れ親しんでいない、ヌーソロジー独特の難解な用語が出て来ているわけですから、そうしたものが苦手な者にとっては、この辺りで、アタマの中がウニのようになってしまいます。そこで、それらに多少はとっつきやすくするために、若干の簡単な補足をしておきます。

まずは、「スピノル」についてです。量子力学や素粒子物理学などの現代物理学において扱われる物理量は、座標変換と呼ばれるものとの関係で定義されます。座標変換は、簡単に言えば、ある種の回転のようなものと考えてもらえば、とりあえずはイメージしやすいでしょう。ふつう回転と言えば、何か三角形だとか矢印といった平面上の図形を思い浮かべてもらえばわかりやすいですが、360度回転させれば、元の形のところに戻ってきます。こうした存在を物理学では「ベクトル」と呼びます。つまり、座標変換において1回転、つまり、360度で元に戻る存在が「ベクトル」です。ところが、座標変換をしても何も変わらない存在があります。それが「スカラー」です。つまり、座標変換において0回転、つまり、0度で元に戻る存在が「スカラー」です。ところが、こうした「ベクトル」だとか「スカラー」とはちょっと毛色の異なる空間構造を持った存在があります。それが「スピノル」です。「スピノル」は、なんと2回転、つまり、720度で元に戻るのです。

図1 普通の輪とメビウスの帯の違い
(身近な科学http://tehiro.sakura.ne.jp/studyaid/diary.cgi?no=10 より)

「スピノル」をイメージするには、「メビウスの帯」を思い浮かべてもらえばわかりやすいと思います。まずは、ペラペラの紙の帯を使って、普通の輪とメビウスの帯を作ってみましょう。1回も捩じらずにふつうに帯の端同士を糊付けすれば「普通の輪」になりますが、1回だけ捩って帯の端同士を糊付けすれば「メビウスの帯」になります。「普通の輪」をぐるっと指でたどる場合、輪の内側、外側ともそれぞれ360度で元の位置に戻ってきます。ところが、「メビウスの帯」を指でたどる場合、内側から始めようが外側から始めようが、途中で反対側の外側や内側に回ってしまい、結局元の位置に戻るまでに2回転分、つまり、720度要するわけです。
物理学では、こうした回転による性質を「スピン」と呼び、n回転で元に戻ることを「スピン1/n」と表現します。したがって、0回転で元に戻るスカラーは「スピン0」、1回転で元に戻るベクトルは「スピン1」、2回転で元に戻るスピノルは「スピン1/2」ということになります。では、まとめておきましょう。


■スカラー
…座標変換において、0回転(0度)で元に戻る物理量。スピン0
■ベクトル
…座標変換において、1回転(360度)で元に戻る物理量。スピン1
■スピノル
…座標変換において、2回転(720度)で元に戻る物理量。スピン1/2

自然界の現象は、突き詰めて考えれば、どんどん細かくしていけば、物質はより基本的な粒子へと分解され、それら粒子同士を結合させたり分離させる力である「4つの力」を用いて説明されます。「4つの力」は「相互作用」とも呼ばれ、電磁気力(電磁相互作用)、弱い力(弱い相互作用)、強い力(強い相互作用)、重力(重力相互作用)の4つです。この「4つの力」自身もまた、力を媒介させるある種の粒子によって説明されます。この物質を構成する基本粒子を「フェルミオン」と呼び、「4つの力」を媒介させる粒子を「ボソン」と呼びます。少し小難しいことを言えば、ここで「粒子」と呼んでいるものは本当の意味では単なる「粒子」ではありません。粒子性と波動性を持った「量子」と呼ばれる存在です。量子力学や素粒子物理学などの現代物理学で扱われるものは、「粒子」という名前がついていても、すべて「量子」のことです。
前述のベクトルやスピノルとの対応で見れば、「フェルミオン」はスピノルです。「ボソン」には、いくつか種類があって、質量を付加する粒子であるヒッグス粒子はスカラー・ボソンとされ、電磁気力を媒介する光子や、中性子崩壊などで現象化される弱い力の媒介粒子であるウィーク・ボソンなどはベクトル・ボソンです。その他、重力を媒介する粒子である「重力子」(グラビトン)は、スピン2(つまり、180度で元に戻る)のボソンです。

■フェルミオン(物質粒子)
…スピン1/2の量子。電子やニュートリノなどのレプトンと、陽子や中性子を構成するuクォークやdクォークなどのクォークがある。

■ボソン(力の媒介粒子)
(1)スカラー・ボソン…スピン0の量子。ヒッグス粒子や、フェルミオンの超対称性パートナーの粒子など。
(2)ベクトル・ボソン…スピン1の量子。「4つの力」のうち、電磁気力、弱い力、強い力を媒介する粒子。具体的には、1種類の光子、3種類のウィーク・ボソン、8種類のグル―オンがある。
(3)重力子(グラビトン)…スピン2の量子。重力を媒介する粒子。

さて、ヌーソロジーでは、古代ギリシアの哲学者アナクサゴラスが説いた「ヌース」(旋回する知性)のイメージのごとく、何かの回転がどんどん結びついていって、物質を始めとする宇宙のすべての存在が作られていると考えています。つまり、ヌーソロジー的な空間の幾何学的構成として「回転」というものを非常に重要視しているわけです。
この「回転」を考える上で大事な考え方が「群」です。言ってみれば、「群」とは、私たちが慣れ親しんでいる、足し算・引き算・掛け算・割り算といった四則演算のごとく、ふつうの数の計算のような感覚で取り扱いたいときに役に立つ考え方です。要するに、「群」とは「数」に対する考え方を拡張したような概念構造だと考えればいいでしょう。その中で、特に、量子力学や素粒子物理学などの現代物理学と関係が深いのが、U(1)SU(2)SU(3)SU(5)といった、ユニタリー群、特殊ユニタリー群です。これらは簡単に言えば、「複素数世界における回転」といった感じのイメージになります。実際、1次ユニタリー群U(1)は「複素数平面上の回転」を表します。私たちがふつう「回転」と呼ぶものは、2次元空間、つまり、平面における回転群SO(2)と、3次元空間における回転群SO(3)でしょう。一般に、n次元空間における回転は「SO(n)」と書かれます。
素粒子世界では何が回転するかと言えば、フェルミオンやボソンが作用する「場」を考え、その場の状態がある種の回転のようなもの、つまり、位相変換を受けると考えるわけです。この「場」はある種の関数であり、簡単に言えば、量子力学で扱われる「波動関数」と呼ばれるものを「場の量子論」の考え方を用いて拡張したものだと考えればいいでしょう。具体的には、電子やクォークといった1種類のフェルミオンを状態回転させるのがU(1)であり、電子とニュートリノの対、uクォークとdクォークの対といった2種類フェルミオンの組を状態回転させるのがSU(2)であり、さらに、uds3種類のクォークの組を状態回転させるのがSU(3)です。つまり、n種類のフェルミオンの組を状態回転させるのがSU(n)だというわけです。
素粒子世界では、これらフェルミオンの組の状態回転の際に、無限小の平行移動としての微分自体も作用を受けることになり、その受けた作用を補正する役割を果たすのがボソン(正確には、ゲージ・ボソン)です。具体的には、「素粒子が持つ内部空間における歪み」として扱われます。歪みを巻き戻してくれる存在が、ボソンだと言っていいでしょう。

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